風の音

笑顔の行方

初めて書いた「狼陛下の花嫁」のSSです。
「sweet±」のかほ様主催の『夏のミュージック・フェア♪』への参加作品でした。
お題は 『ヒマワリ~本当に好きな子には、そんな風に笑わないのでしょう』

お題配布→31Dサイダー様

2010/07/06(初出) ≪臨時花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

「へーかのばかっ!」
そう言い捨てて、夕鈴は部屋を出て行った。

―――どーして途中で『演技』を入れるのよっ!

ぷんぷんと怒りながら廊下を進み、中庭へと出た。
夕方になったとはいえ夏の日差しは眩しくて、自然と目を細める。
近くの木陰へと移動し、すとんと腰を下ろした。
ここ数日、天気が良かったから服が汚れることはないだろう。
手入れの行き届いた後宮の中庭には誰もいない。
木々の緑は濃く、それらが作る影は漆黒だ。
夕鈴は陛下との先ほどのやりとりを思い返す。

**

陛下は大忙しで、朝から晩まで仕事をしていることも稀ではない。
今日も後宮の自室で陛下は黙々と仕事をしていた。
お茶を出そうとそこに行くと、
「コホンッ」
少し乾いた咳が聞こえた。
そんな陛下に
「少しお休みください」
と言った。
それは心配から出た言葉。
「大丈夫だよ」
そう言ってにっこり笑ってかわす陛下に少しムッとした。
「夏風邪はこじらせると大変なんですよ!」
健康第一(貯蓄も大切だけど)なのだ。
まして陛下の変わりはいないのだから。
「大丈夫 大丈夫」
そう言いつつ、陛下はまた咳を一つ。
プチンッ
夕鈴の何かが切れた。
「大丈夫じゃなーい!!咳してるじゃないですかっ。少しだけでも休むべきです!」
知らず陛下を睨んでいたらしく、陛下が少し驚いた顔をした。
コホンッ と咳をして陛下が近づいてきた。
「君こそ風邪をうつされたくなかったら、ここから出ていったらどうだ?」
夕鈴の腰に手が伸ばされ引き寄せられた。
「それとも・・・君が私の看病をしてくれるのか?」
至近距離での狼陛下の笑みにドキンと心臓が跳ねた。
捕まっちゃいけない、その思いで夕鈴は陛下を思いっきり突き飛ばした。
「へーかのばかっ!」
そう言い捨てて逃げるように部屋から出てきたのである。

**

―――本物の花嫁の前ならきっと、そんな風に笑わないのでしょう?

どこか悲しみを帯びた狼陛下の笑みに、偽者の花嫁は胸を締め付けられる。
自分の無力さに夕鈴は下を向いて目を閉じた。
本来ならば、自分は陛下のお顔を見ることも、ましてや話をすることもなかった身分だ。
言ってしまった言葉を、あんな顔をさせてしまった事を、反省する。

”偽者の花嫁は陛下のお体を心配することもかなわない”

「はぁ・・・」
知らずため息が出た。

―――本物の花嫁の前なら、どんな風に笑うのかな?

ふ、とそんな疑問が頭に浮かんで、何故か『狼陛下』の優しい笑みが過ぎった。
何で演技のほうを思い出すのよ!と思い浮かんだ映像を払いのけるように、首をふるふると横に振った瞬間
「夕鈴」
頭の上で声がして、肩がビクッと震える。
夕鈴は顔を上げられなくて、下を向いたまま固まった。
「あんな風に言ってくれるのは、夕鈴だけだよ」
顔を上げるとそこにあるのは、陛下の優しい笑み。
「わ・・・私は思ったことを口にしただけですっ」
そんな事を言われるとは思ってもいなくて、夕鈴はぷいっと横を向く。
「それが嬉しいよ」
再び陛下を見ると左手が差し出されていて、少しためらいながら右手を乗せるとぐいっと手を引かれた。
「わっ」
ぽすんと陛下の腕におさまる。途端、頭の中が真っ白になる。
「あ・・・あのぉ~・・・陛下・・・?」
どうしたらいいのか分からず固まってしまう。
「ありがとう」
陛下の腕に少し力が入ったように感じた。
ゆっくりと見上げるとそこにあるのは、『狼陛下』の優しい笑みで。
ドキンッ
心臓が飛び跳ねて、顔がかあっと熱くなる。

演技 演技 演技・・・

念じるようにそう考えてみるけれど、鼓動は早くなるばかり。

”本物の花嫁の前なら、どんな風に笑うのかな?”

先ほどの自分の考えがぽんっと浮かんで、体中が熱を帯びる。
どきん
 どきん
  どきん
   どきん
鼓動は止まない。

―――私の気持ちは少しでも陛下に伝わってる・・・?

その事を確認するように陛下の顔を見つめるが、『狼陛下』からは本心が読み取れない。
優しい狼陛下の顔をずっとみていられなくて、ふいっと目を逸らす。
陛下は何も言えずにいる夕鈴を解放して、名残惜しそうに夕鈴の髪の毛をひとすくい。
「夕鈴はお母さんみたいだね」
子犬陛下ににっこり言われて
「なっ///私は陛下のお母さんじゃないですよっ!!」
暮れ始めた夏の空に夕鈴の声が大きく響いた。


私は本物の花嫁にはなれないけれど
陛下の味方でいようと思った
陛下の力になりたいと思った
その気持ちは”本物”だから
どうかまっすぐあなたに届きますように・・・


―次の日。
「コホンッ」
「おや?夕鈴殿、風邪ですか?陛下にうつさないでくださいよ」

その陛下にうつされたんですよっ!

むすっとしながらも、上司にそう言えない夕鈴なのでした。

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