風の音

うさぎの瞳に映る世界

「sweet±」のかほ様主催の『夏のミュージック・フェア♪』への参加作品第二弾。
お題は『コウホネ/とても高くて、届かないよ』でした。
「コウホネ」の花言葉には「崇高」「秘められた愛情」「美しい人格」などがあります。

お題配布→31Dサイダー様

2010/07/10(初出) ≪臨時花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

後宮に行く途中、掃除婦姿の夕鈴を見つけて呼び止めた。
「夕鈴」
ビクッと夕鈴の体が震える。
「陛下」
そう言って振り返った夕鈴からはピンとした空気が読み取れた。

狼陛下はまだ怖い・・・か

その事実にわだかまりを感じながらも、カツカツと夕鈴に近づく。
「また掃除をしてたのか?」
わざと狼陛下で問う。それはちょっとした悪戯心。
「仕事ですから」
キッパリとそう言う。
「ふうん。夕鈴は私の妃でいるよりも、こちらの方が好きか?」
掃除をしている夕鈴は楽しそうで、ついそんな質問をした。
夕鈴が逃げないように壁に押し付け、両手で夕鈴の退路を断ち、じっと夕鈴の瞳を見つめる。
狼に捕まった兎。
「な・・・にを・・・そんなことは・・・」
夕鈴はごにょごにょとそう言い下を向く。
「そんなことより、掃除婦と話しているところを他の人に見られでもしたら・・・」

そんなこと・・・?
君には「そんなこと」なんだ?

「構わん。別に誰に咎められるでもない」
夕鈴の顎をくいっと持ち上げる。
真っ赤になって瞳を少しうるうるとさせている顔を見ると、ますますいじめたくなる。
狼陛下は嫌いではないと言ってくれた彼女を信じたい。
それを確認する術・・・
「お妃の仕事もちゃんとやりますよって私、前に言いましたよ」
信じてないんですか・・・?と悲しそうに顔を崩す彼女に
「君は掃除をしている時のほうが活き活きとしているからな」
そう言って兎を追い詰める。
「お妃の仕事はまだまだ修業不足なんです。そっちも頑張ってます」

知ってる。

李順に怒られながらも妃修業をしてくれている事も、『狼陛下』を怖がらないようになると言ってくれた事も。
たとえ君が「仕事」だと割り切っていたとしても、僕は嬉しいよ。
狼陛下が怖くて今にも逃げ出したいだろうに、きちんと意見を言う姿が微笑ましい。
これ以上いじめるとこの間みたいに泣いて逃げられてしまうかな、と思い
「そうか。それならいいんだ」
そう優しい口調で言い、ぎゅっと抱きしめたい衝動を何とか堪え、兎を一旦解放する。
そっと夕鈴の前髪を掻きあげてダテメガネを取る。
彼女の瞳から零れ落ちそうな涙に軽く唇で触れる。
夕鈴は一瞬、何が起きたのか分からずきょとんとした後、顔が真っ赤になった。
「??なっ・・・何を///」
口を金魚みたいにパクパクさせて僕を見つめて固まった。
感情をまっすぐ向けて接してくれることに、僕がどれだけ救われているか君は分かっていないだろう。
表裏の無い君は僕からはとても高くて、届かない存在。
殺伐としたこの場所で、君だけは何にも染まることなくそのままでいてくれるように、と思う。
「陛下っ!」
顔を少しこわばらせて夕鈴が叫んだ。
「何だ?夕鈴」。
透き通った彼女の瞳に映る自分を見る。
「私は掃除をしていたので、汚れてしまいますよっ!」
夕鈴が力強くそう言った。
「今日は特に埃だらけの場所を掃除していたんですよ」「すごく汚れていて、水を何回もかえに行ったんです」
「私も埃だらけなんです」「陛下が汚れたまま李順さんに会ったら怒られるのは私なんですよ!」
と必死に両手をバタバタさせながら顔を真っ赤にして話している。
「ぷっ」
突然何を言い出すかと思えば、

”やっぱり君には敵わない”

「お・・・お腹痛・・・」
腹を抱えて笑うなんて、夕鈴がくるまでなかった。
敵も味方もないこの場所で、誰に心を許すでもなく生きてきた。
『狼陛下』は完璧で、誰にも隙をみせない。隙をみせたが最後。食うか食われるか、なのだから。
再び誰かを信じたいと思う日がくるなんて思わなかった。
「何で笑うんですか!笑うところじゃないですよ」
も~汚れても知りませんよ、と夕鈴はそっぽを向く。
そんな彼女が可愛くて、やっぱり手放したくないと思う。


いつか「狼陛下」が『演技』じゃないと知ったら
君は僕から離れていくだろうか
それが怖くて僕は『フリ』をする
「狼陛下」は『演技』だと・・・


―可愛い兎が最後に行き着く先は何処?

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