風の音

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

モモ様へ

2010/10/23(初出) ≪臨時花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

政務室へ通うようになってから、私の『狼陛下の花嫁』としての仕事は増えた。
人前でおしとやかににこにこするのは正直疲れる。
その姿は、偽者の私だから。
このバイトの話がなければ、話があったとしても採用されなければ、きっと知らなかった。
『狼陛下』のことを。
庶民の間で流れていた『狼陛下』の怖い噂には尾ひれが付いていたことを知った。
本当のことを知らなければよかったとは思わない。
そういえば『狼陛下』も演技なんだから、今の私たちは本当の自分を隠している者同士、偽者の夫婦を演じているわけだ。
偽者だらけだわ・・・そう思って苦笑いしてしまう。
ココはそういう場所なんだと陛下が言っていたことがあった。
それを実感する。
でもその中に本物がある事を信じてほしいと思う。
例えば、さっきから私を睨んでくる柳方淵の陛下に対する忠誠心とか。
執務中の陛下を目で追う。
私には何をしているのかよく分からないけれど、国を担う仕事なのだから大変なんてものじゃないんだろう。
相変わらず、ピリピリとした空気が流れていて居心地は良くない。
「夕鈴、どうした?」
ぼんやりとしていたらしく、目の前に陛下の顔があった。
びっくりして声が出なかった。
表情は狼陛下のままで優しくゆっくり話す。
それは花嫁に対してだけ。
ドキドキしていることを必死に隠して、声を上げそうになるのを堪えて、笑顔を作るけどうまくいかない。
頬が引きつる。
「顔が赤いが熱はない様だな」
陛下が私の額に手を当ててそう言った。

冷たい・・・

「今日はもう後宮へ戻るか?」
私にそう聞くのは珍しい。
「・・・大丈夫です」
「そうか。もうすぐ終わる」
フッと笑った狼陛下の笑顔にきゅうっと胸が苦しくなる。

どうしてそんなに演技が上手なんだろう・・・
勘違いしてしまいそうなほどに。

後宮へ戻り陛下とお茶をしている時に聞いてみた。
「陛下はどうしてそんなに演技が上手なんですか?」
陛下は目を見開いて私を見た。
「夕鈴は演技が上手になってきたよ」
「~~っ。そんなわけないじゃないですかっ!」

小犬陛下のにっこり笑顔に誤魔化されないんだから。
私の演技が上手・・・??
あり得ない。

だって・・・演技をしていられるほどの余裕はない。
いつだって必死で『狼陛下の花嫁』であろうとしているのだから。
最初はお給料や借金返済のためだったけど、今は陛下のために頑張ろうと思っている。
「私は・・・」
「夕鈴?」
立ち上がると、ガタンッと大きな音を立てて椅子が倒れた。
「私は演技が上手じゃないですっ!」
その自信だけはある。演技は苦手。
陛下の役に立てているのかが不安・・・。

足手まといになってない?

『花嫁』としてちゃんと振舞えてる?

陛下が席を立って近づいてきた。
陛下の両手が頬に触れて顔を逸らせないようにされた。
私の頬をすっぽり包んでしまうくらい大きな手はやっぱり冷たい。
「君が側にいてくれるだけでいい」
狼陛下の瞳に吸い込まれそうになる。
怖い・・・とは違う感情。

”側にいるだけ”ならきっと私じゃなくてもいい。

だから、私は私にしかできないことをしたい。
上手く伝えられないこの気持ちを持て余している。
「わ・・・私はちゃんとここにいますよ」
こんな言葉しか出てこない。
自分の両手を陛下の手に重ねてしっかりと陛下を見る。
陛下の顔が近づいてきて思わず目を閉じて手をぎゅっと握る。
「さすが『狼陛下』を夢中にさせる妃だな」

へ?

そっと目を開けて陛下を見るとそこにあったのは悪戯な笑みを浮かべた狼。
「なっ、私はそんなつもりないですよ!?」
「これだから困る」
「どういう意味ですか??」
その問いの答えが返ってくることはなく、ひょいっと持ち上げられた。
「下ろしてくださいっ」
じたばたと暴れるけれど放してはもらえない。
「君は無防備すぎる」
私の動きがピタッと止まる。

そういえば、さっきから狼陛下のままだ・・・

背筋がぞくっとした。
「・・・そんな事はないと思います」
いろいろと思い当たる節があるので、小さな声で訴えてみる。
ストンと地面に足が付いた。
「私の前でだけ無防備だと嬉しいんだが」

それってどういう意味・・・?

「可愛い妃と一緒に朝までいられないのは寂しいが、もう戻る。おやすみ」
私の耳元で優しく言われた台詞が上手く飲み込めない。
「おやすみなさいませ・・・」
回らない頭を何とか回転させて、おやすみの挨拶だけはした。
陛下が去っていった扉を見つめてもう一度言われた言葉を思い出して、カッと身体中が熱くなった。
へなへなと床に座る。
きっとドキドキとしているのは私だけ。
「~~ずるいっ///」
両耳を塞いでも残る声。


二人しかいない場所で甘く囁かれる言葉も演技よね・・・?


スポンサーサイト

*** COMMENT ***

コメントの投稿

管理人にだけ読んでもらう

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。