風の音

夢物語

2010/11/13(初出) 2015/09/17(加筆修正) ≪臨時花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

最近、侍女たちの様子がおかしいと夕鈴は思っていた。
どこかソワソワと落ち着きがなく、まるで何かを待ちわびているかのようだった。
「何かあるの?」
そう聞いても侍女たちは「何もございません」と答えるだけ。
夕鈴もそれ以上は問い詰めたりしないので、この話はこれでお仕舞い。
そうなるはずだった。
でも、数日後にその事件は起こった。

*   *

夕鈴は後宮の廊下を走っていた。
どこまでも続く廊下のどこをどう走ってきたのかさえ分からなくなる。
でもそんなことよりもこの事態をどうにかしようと考えながら必死で逃げる。
誰にも会いませんように!そう願って夕鈴はひたすら走る。

ここまで来れば大丈夫かな・・・

夕鈴はキョロキョロと周りを見渡した。周りに人の気配はしない。
サワサワと木々の揺れる音がする。
息を整えて改めて見渡すと、初めて来る場所だった。
夕鈴の身長よりも高い木々には薄桃色の花々が咲いている。
大輪の花は先がひらひらとしていて、どこか儚げだ。
庭の奥だと思われる場所まで手入れが行き届いているわけではないようで、自然のまま花が咲いている。
誰に見られることもなくひっそりとしたこの場所で咲いている様は悲しく目に映る。
花に見惚れていて気が付いたときには遅かった。
ガサガサと何かがこちらに向かって来る気配がした。

ど・・・どうしよう

近くに隠れる場所もないし、開けたこの場所は走って逃げても捕まってしまうと思い夕鈴は足がすくんだ。

「夕鈴?」
「!!」
目が合ったまま夕鈴も陛下も固まった。

一番見られたくない人に見られた・・・

恥ずかしい・・・!

「あ・・・あのっ。これは違うんです!そのっ、侍女さんたちが・・・」
夕鈴は両手をパタパタさせる。顔が熱を帯びて心臓が大きく鳴る。
「ぼーっとしていたら、こんな格好にさせられてたんですっ!」
知らず、手をぎゅっと握り締めていて身体中に力が入っていた。
朝、侍女たちがいつも通り来ていろいろとお世話をしてくれた。
考え事をしていて、ふと鏡を見て驚いた。
いつもより濃い化粧に、宝石で着飾られた自分の姿が鏡の中にあった。
侍女たちを見ると嬉しそうににこにことしている。
最近侍女たちの様子がおかしかったのは、夕鈴を着飾りたかったからだと気づいた。
その機会を窺ってソワソワしていたのだ。

やられた!

用意の途中だと分かっていたけれど、思いっきり椅子から立ち上がって逃げた。
鏡に映った自分を思い出す。
「似合わないですよねっ!」
何故か焦ってしまう。どんどん自分を追い詰めている気がしてくる。
「似合うよ」
「今、演技はいらないですっ!」
二人しかいないこの場所で『妃を愛する』フリはいらない。
陛下が夕鈴に近づいてくる。
夕鈴は動けずにその場に立ち尽くした。
パキンと咲いていた花を摘んで、陛下が夕鈴の髪に花を挿す。
「かわいいよ」
ゆっくりと陛下がそう言うので、夕鈴は何も言えなくなった。
「こんな場所があったんだね。木芙蓉が綺麗だね」
陛下がそっと夕鈴に挿した花に触れたと同時に夕鈴は少しビクッとする。
「ここは夕鈴と僕の秘密の場所だね」
ふんわり笑う陛下に夕鈴の心は痛くなる。

いつかその笑顔が他の人に向けられても
いつかこの場所を他の人と見ることがあっても

じんわりと目頭が熱くなる。

その笑顔も、ここで過ごした日々も、泣きそうになるこの気持ちも、
ぜんぶ
心の奥にしまっておくから
せめて今だけは

「・・・はい。」
笑顔で答える。

”まぼろし”を見ているんだと言い聞かせて、少しにじむ世界を焼き付ける。


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