風の音

甘い約束

ともりゅう様へ

2015/09/18 ≪臨時花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

「で、何でこうなっているんでしょうか??」
私、汀夕鈴は頭を抱えていた。
王宮の奥で掃除婦をしている、というのは表向きの顔で、本当は狼陛下の『臨時花嫁』をしている。
のだけれど、今私がいる場所は王宮ではない。
―――下町。
国王が代替わりをしてから賑わうようになり、異国の人や物も多く出入りするようになった。
あちらこちらで露店の商人が行きかう人に声をかけて、商品を売り込む姿が見える。
「そこのお嬢さん!この首飾り、綺麗でしょ。異国の珍しい石でできてるんだよ。彼氏に買ってもらいなよ」
露店から顔を出すようにして商品を売り込むおじさんに声をかけられた。
「なっ・・・彼氏じゃないです!」
おじさんに噛みつくように言い放った。
「またまたぁ~仲良く手繋いでるのに恥ずかしがらなくても」
はっとして手を見ると・・・繋いでた。

―――いつの間に!?

「離してください」
繋がれている手をぶんぶん振って振りほどこうとしたが、無理だった。
「えー。手を離すと迷子になっちゃうよ?」
にーっこり笑顔で言われた。
確かにこの人出では迷子になりかねない。
「もうっ!」
恥ずかしいけど、手を振りほどくのを諦めた。
私の隣にいるのは白陽国国王その人だ。
私は元の下町娘姿。
陛下はフードをすっぽりかぶって伊達眼鏡をかけている、私の上司“李翔”さんといういで立ち。

―――この人がまさかあの『冷酷非情の狼陛下』だなんて一体誰が信じるだろうか
   知っていてもそう思えないわ・・・

「ん?僕の顔に何かついてる?」
どうやら陛下の顔をじーっと見つめていたらしい。
ばっと顔を背けて「何でもないです」と答えた。
「あっ!夕鈴あっちいい匂いがするよ~」
陛下は尻尾をパタパタさせて、ほにゃーと顔を緩めた。
ぐいぐい手を引っ張られて陛下に行く先を委ねた。
ほかほかのお饅頭を頬張る。皮はふかふかで中の餡子が程よく甘く、口に広がる。
「美味しいね」
「はい」
他愛もない話をしながら、もぐもぐと食べ進める。
「夕鈴、ここに付いてるよ」
陛下が唇の横をトントンして、付いていることを教えてくれた。
自分で取ろうとしたけど、反対だったらしく手には何も付かなかった。
「こっちだよ」
くすっと笑われて、陛下の手が伸びる。
私の口の横についていた餡子を取って、陛下がパクリと自分の口に運んで食べてしまった。
「・・・っ///」

―――うわ・・・うわわっ///
   何でこの人はサラリとこういう事ができるのか・・・

居たたまれなくて、思わず目を逸らしてしまう。
お饅頭を食べ終わり、露店回りを再開した。
喧騒の中、大勢の人に揉まれて歩く。
日用品、食品、一風変わった品物・・・いろいろな物が売られていて、歩きながらだったり少し立ち止まってみたり、楽しい時を過ごす。
陛下の「夕鈴に何か買ってあげたい」という言葉を丁重にお断りして下町を満喫する。

―――デートみたい・・・
   下町に住む者同士だったなら、こういう感じなのかしら?

恋愛沙汰は苦手で、そういう経験のない私はぼんやりとそう思った。
“王様”と“一般庶民”
この差は埋まることなどない。大きな大きな差。
どうしても頭から離れない“現実”
押しつぶされそうになる思いを振り切るように繋いでいた手を離して、タタッと少し走って陛下の方を振り返る。
「李翔さん、あちらで少し休みましょう」
喧騒から少し離れた場所へ行き、空いていた椅子に並んで座る。
「疲れちゃった?」
演技の癖でつい陛下にもたれ掛かっていた。
「大丈夫です。えっと・・・―――みたいだなって思って・・・」
顔が火照ってきた。
「ん?何みたいなの?」
優しい声で聞かれて、ますます恥ずかしさが増す。
「何でもないです!」
「君は私に隠し事をするのか?」
「なっ・・・んで、狼!?」
ぎょっとする私の両頬を優しく包む大きな手。
「で、何みたいなんだ?」
私は逃げられないと観念した。
「あっ・・・う・・・恋人同士みたいだなって。あのっ、すみませんっ」
思わず目を閉じる。

―――もう私ってば何言ってるんだろ

心臓がドクドクしているのを体中で感じる。
陛下の顔を見られない・・・。
「僕はそのつもりでいたけど」
サラッと言われたことに驚き、パッと目を開けて陛下の顔を見つめた。
「・・・え?」
「夕鈴は違ったの?」
あるはずのない小犬の耳と尻尾が垂れているように見える。
「・・・私も同じです」
自然と笑みがこぼれた。
「また一緒に来ようね♪」
「はい。」
いつの間にか夕陽が空を橙色に染めていた。
露店主たちは店じまいを始め、少しずつ家々に明かりが灯り始める。
「帰ろっか」
椅子から立ち上がり、差し出された手を取る。
「はい!」
「・・・んー。やっぱり“恋人同士”ではないな」
ボソリとつぶやいた陛下に首を傾げる私。
「一緒の家に帰るなら、やはり“夫婦”だな」
見下ろされた陛下の顔は狼で、目が離せずに突っ立っていると、ふいに頬に温かいものが降ってきた。
「可愛いことを言ってくれるお嫁さんが悪い」
私の耳元でそっとそう言い、耳たぶを甘噛みされた。
「・・・っ!?」
あまりの出来事に声を出せず目をぱちくりさせていると、ふわっと抱き上げられた。
「お・・・下ろしてください!誰かに見られたら・・・」
「大丈夫だよー。ほら、あそこに馬車を待たせてるから♪」
陛下の足取りは軽やかで。
私の顔が赤いのは夕陽で染まったせいにする。

下町でしか味わえない時間。
ここでしか出来ない二人の約束。
今日の事は心に大切にしまっておく。



この後、私は馬車の中で腰を抜かすことになるなんて思いもよらなかった。
陛下に耳元でずうっと甘くとろける台詞を言われ続けることとなるのである。



* ≪リクエスト≫
  城下でお忍びデート
  おいしい物を食べたり買い物をしたりと現代だったらきっと二人はこういうデートをするんだろうなぁというカンジ のお話でした。

スポンサーサイト
«日記  | HOME |  日記»

*** COMMENT ***

コメントの投稿

管理人にだけ読んでもらう