風の音

臨時の条件

2015/10/28 ≪花嫁≫

※ 李順さん視点です。
  よって、ほのぼの甘々しておりませんので、ご注意くださいませ。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

お妃教育の小休憩中。
李順は夕鈴がソワソワしていることに気づかない振りをしていた。
自分に話しかけたいような素振りである事は、察しがついていたのだが。
「李順さん、お聞きしたいことがあるのですが」
「どこか分からない所がありましたか?」
「あ・・・いえ。勉強のことではなくて、ですね・・・」
言葉を濁す夕鈴に李順は短く息を吐き、聞き返した。
「何ですか?」
「あのっ。どうして私だったんでしょうか?」
「何がですか?」
「『臨時花嫁』に選ばれたの、何で私だったんですか!?」
「はあ?」

今更何を言うのかと思えば・・・

少し呆れながらも李順はスラスラと言葉にした。
「候補は何人かいました。候補者全員の性格は基より素行・交友関係・家族構成・家柄等、全て調べ上げた結果です」
「全て・・・ですか」
「勿論。臨時とはいえ陛下の花嫁役ですからね。しっっかりと、調べましたよ」
「・・・私より適した人がいたんじゃないんですか?」

何故それを知りたがる、小娘・・・

「今更、怖気づいたんですか?」
眼鏡の奥から夕鈴をギロリと睨めば、肩を竦みあがらせて首を左右にブンブン振った。
「違いますっ!ちょっと気になっていただけです」
「では、この話はこれで終わりです。休憩も終わりです。続きを始めますよ」
「はい」
机の上の書物に目を落としている夕鈴を李順は見つめた。

何でこうなりましたかねぇ・・・

こめかみを抑えて頭を振った。
確かに夕鈴より身分の高い者も、教養のある者も、見目麗しい者もいた。
でも、彼女が一番の適任だと判断した。
李順が候補者を絞る際に一番危惧したことを回避した結果・・・。
しかしそれは脆くも崩れ去ることとなった。

『夕鈴を妃として迎える』
そう陛下に言われた時、驚いたと同時についにこの時が来たか、と李順は頭を抱えた。
夕鈴を臨時花嫁として雇った時から、陛下は夕鈴を気に入っていた。
だから、二人に幾度となく釘を刺してきた。
それは二人にとって良かれと思って言ってきた言葉で、二人に嫌われるために言っていた言葉ではない。

――― 一般庶民が後宮に入ること

皆に公言していなくても、それがどういう事か李順には分かっている。
それはむしろ陛下の方が理解しているはずだ。
臨時花嫁の時にも言われていた“下賤の妃”。
臨時花嫁の時ならばかわせていたその言葉が、本物の花嫁ともなればこれからは夕鈴にとって直接心に痛みを伴う言葉になる。
だから李順は、夕鈴にもあえて厳しいことを言ったし、逃げ道も与えた。
『まだ元いた世界に戻れる。』と・・・。
でも、夕鈴は折れることなく真っすぐな瞳で言い切った。
その時、李順は夕鈴が陛下にとって必要な光だと思った事は誰にも言っていない。

私の計画が白紙になったのは痛いですが、致し方ありません。

『側にいられるなら努力は惜しみません』

では、その努力見せてもらいましょうかね・・・

李順は今日何度目かになる溜息をつき、眼鏡の位置を直した。

*  *

夜、李順が自室に一人でいると窓の外からこちらを窺っている人物がいた。
「こんな夜中に何ですか」
その人物は窓を開けスタンッと床に下り、にかっと笑った。
「やー、李順サンも大変だね」
「・・・お妃様の警護はどうなさったんです?」
「お妃ちゃんには今、狼がベッタリだから、オレ必要ないっしょ」
むしろ、警護してたら殺されかねないし~と、のほほんと言った。
ふーと息を吐く。
「昼の話。お妃ちゃんに話してないコトがあるんデショ?」
ギロリと浩大を睨むも浩大は動じない。
「知る必要のない話ですからね」
「んー。そういうモンっすかね」
酒を放り投げて渡すと、「胃、お大事に~」と言って浩大はまた窓から出て行った。


陛下にも夕鈴にも話していない要件。
それは『可もなく不可もない人物』。
狼陛下が一目で気に入ってはいけないので、そういう可能性のある人物は除外したこと。
かと言って、気に入らないのも駄目なので、慎重に見極めた・・・はずだった。

私もまだまだ陛下の事が分かってないということですかね・・・

窓を覗くと月が明るく地上を照らしていた。
夕鈴のバイトが終わって彼女が元の世界に帰った後、陛下は変わられた。
正しい判断で正しい状態なはずなのに、夕鈴が来る前とはどこか違っていた。
夕鈴が戻ってきてから陛下は、夕鈴が来る前とも夕鈴がいた時とも少し違う雰囲気をまとっている。
良い傾向なのか悪い傾向なのか。

こうなったからには、最後までお付き合いしますよ、陛下。

「それにしても、のろけ話を聞くというのは私の仕事外ですがね。何とかなりませんかね・・・」
ポツリと呟いた言葉は宙に消え、頭は自然と明日の段取りに移っていく。

夜の闇は濃く深くなり、月はさらに光を増して降り注ぐ。


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