風の音

我儘は言わない ~前編~

2015/11/14 ≪臨時花嫁≫
※ 前後編になります。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

「たまには我儘を言って欲しい」
先日、陛下にそう言われたけれど、我儘って・・・言わないものなんじゃ・・・ないの?と夕鈴は首を傾げた。
元来、長女の夕鈴はお姉さん気質。
例えば、一つお饅頭をもらったら、当然弟と半分こ。
むしろ弟の方のお饅頭を多くして渡す。
一つ玩具をもらって、弟が欲しがったらあげる。
“お姉ちゃん”なんだから、それが当たり前。
弟が生まれた時から体に染みついている事。
我慢をしている時もあるけれど、弟が「ありがとう」とにっこり言ってくれるだけで嬉しいから平気。

――― そもそも、臨時花嫁が陛下にどんな我儘を言えばいいの?

考えてもさっぱり答えの出ない問いに夕鈴は頭を抱えた。
「お妃様、陛下がお呼びでございます」
すすすっと侍女が部屋に入り、知らせてくれる。
「はい、今参ります」
椅子から立ち上がり、陛下のいる政務室へ向かう。
夏も終わり、少し涼しくなってきた今日この頃。
政務室へ向かう回廊からは、少し色づき始めた木々がちらほら見える。

――― 朝晩は冷えるものね・・・
    体調には気をつけなくちゃ

夕鈴が政務室へ着くと、そこはまさに戦場と化していた。
官吏たちはバタバタと動き回り、陛下の机上には書簡がうず高く積まれている。
夕鈴から陛下の顔は見えないが、狼陛下のオーラが伝わってくる。
「陛下、お呼びでございますか」
お妃スマイルを忘れずに、おそるおそる政務室へ入る。
「ああ、こちらへ。我が妃はまるで春を運んでくれる春の精のようだな」
狼陛下がフッと笑う。
「~~~っ!///まあ、陛下。そのようなお言葉をかけてくださるなんて、嬉しゅうございます」
何とか言葉を紡ぐ夕鈴は口元が引きつるのを扇で隠して、必死でお妃スマイルを崩さないようにしている。

――― なんであんなにスラスラと恥ずかしげもなく言えるの!?

夕鈴が何とかお妃の体裁を保っている間に、李順は皆に休憩の旨を伝え人払いをした。
「はああ~。やってもやっても終わんないんだよねー、コレ」
陛下が机に顎を乗せてぐったりとする。
「お疲れ様です。温かいお茶とお菓子をご用意しましょうか?」
小犬になった陛下にホッとしながら夕鈴は聞いた。
「う~ん。それより、夕鈴こっち来て」
「?はい」
夕鈴が陛下の元へ行くと、ひょいっと抱えあげられて膝抱っこされた。
「!?あ・・・のっ・・・??」
人払いがしてあるとはいえ、ここは政務室。
驚いて状況把握できない夕鈴は言葉を失った。
陛下はお構いなしに夕鈴の肩に頭を預ける。
「陛下・・・?やっぱりお茶とお菓子お持ちしますよ」
「だいじょうぶー。今、夕鈴を補充してるから」
「何ですか、それ!?」
思わず素っ頓狂な声が夕鈴から出る。
「僕の心には君が必要なんだ」

――― なにそれ、なにそれ、なにそれっ!?

軽く混乱しながら口をパクパクさせていると
「僕の我儘・・・かな・・・」
少し弱々しくにこっと笑った小犬に、兎は心をきゅんと締め付けられる。
「私でよろしければ、いっぱい補充してくださいね」
そう言って陛下の首に手をまわしてぎゅっと抱きしめた。

――― 恥ずかしい///!!

「・・・元気になりましたか?」
少しして手を離して、おずおずと陛下の顔を見る。
「・・・ああ。我が妃は私の心を掴んで離さないな」
髪にサラリと触れられて、狼の瞳に見つめられた夕鈴は体に稲妻が走ったように感じた。

――― 逃げなくちゃ!

反射的にそう思った夕鈴は、陛下を押しのけて何とか笑顔を作る。
「もうそろそろ休憩も終わりでしょうから、私は後宮へ戻りますね」
後宮へ戻ろうと踵を返した時「夕鈴」と名を呼ばれた。
くるりと振り返ると
「ありがとう」
妃にしか向けない優しい笑顔でそう言われた。
「・・・はい・・・」
苦しくなる胸の内を気づかれないように、それだけ言うのがやっとで、足早に回廊を渡る。
自室へ戻り一人にしてもらった瞬間、体の力が抜けてへなへなと床に座り込んだ。

――― なんなの!?あの狼陛下は・・・!
    私の事からかって遊んでるの!?

胸の早鐘は狼陛下へのドキドキなのか、足早にここまで来たドキドキなのか、はたまた両方なのか夕鈴にはもう分からなかった。


そして、迎えた次の日。
夕鈴は政務室に呼ばれることもなく、陛下が後宮にやってくることもなく過ぎていった。



後編 へ続く・・・

 
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