風の音

我儘は言わない ~後編~

2015/11/18 ≪臨時花嫁≫
※ 後編になります。
  前編は こちら です。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

――― もう一週間もお顔を拝見していない・・・

夕鈴は今日も後宮の庭を散策していた。
すっかり秋めいた庭はどこか物悲しくもある。
「会いたい・・・」
思わず出た本音に頭を左右にブンブン振る。

――― 私は臨時花嫁!そんな事を思うのはいけないこと

両頬をパンと叩く。

――― 間違えちゃ、駄目。

体に心に言い聞かせる。
陛下は急遽発覚した公共事業の不備で忙しくて来られない、と聞いてはいるもののやはり不安になるもので・・・。

――― このままバイト終了とか?
    私、陛下に何かしたかしら・・・

考えは悪い方へ悪い方へ向かってゆく。
夕鈴は止まらないぐるぐる回る考えに嫌気がさして、自室へと戻った。
そして、夜になり。
「お妃様、今日も陛下はいらっしゃらないそうです」
「そうですか・・・」
ふうとため息がこぼれる。
「もう少しだけ待って休みますね」
申し訳なさそうに言う侍女に夕鈴はにっこり笑顔で伝えた。
羽織を着て外へ出ると、月が夜空を照らしていた。

――― 体調を崩されていないとよいけど・・・

思うのは陛下の事。
いつの間にか心の中に住み着いているこの想いを伝える術を持たない偽物の妃は、心の中で思うだけ。
夕鈴は寒さを感じて部屋へと戻った。
半刻の後、寝台に入り目を閉じれば夢へと吸い込まれていった。

*  *

「・・・んっ」
ゆっくり目を開けて、暗くてよくは見えないが目を凝らすと誰かがいた。
「へーか・・・?」
いるはずのない人の名を呼ぶ。
返事はなく・・・でもこれが夢ならば・・・。
「     」
覗き込んでいる人の首に手を回した。
背中に手を回されて、抱きしめられた気がする。
安心する優しさに身を任せ目を閉じた。


――― 翌朝
夕鈴は鳥のさえずりで目が覚めた。
ヒンヤリとした空気が部屋を漂い少し身震いをする。
何か、いい夢を見たような・・・そんな気分が良い目覚めだった。
体を起こすと何かが乗っていたようで重みがズレた。
「?」
広げてみるとそれは陛下のマント。
前にもこんな事があったような・・・と首を傾げながら記憶をたどる。
ひょっとして夜中にまた陛下のマントを離さなかったのでは!?と夕鈴は青ざめた。
一度ならず二度までも。
掃除婦バイト中もその事ばかりに気がいき、さらに老師と浩大に邪魔をされてイライラも重なって、なかなか掃除は進まなかった。
そんなこんなで夕刻になり、侍女が陛下の訪れを告げた。
「久しぶりに会う君は愁いを帯びてますます私を魅了してやまないな。寂しくはなかったか?」
「は・・・い。寂しゅうございました」
触れられた頬から熱を帯びる。
人払いを済ませた後、夕鈴はおそるおそる陛下にマントの事を聞いた。
「夕鈴、掴んで離さなかったから置いてっちゃった」
やっぱり・・・と夕鈴は項垂れる。
「あの、その時、私何か言いましたか?」
夕鈴は眉をへの字にしながら上目遣いでおそるおそる陛下に聞いた。
「ああ・・・可愛い寝言を言ってたな」
狼の瞳が悪戯っぽく光ったように夕鈴には見えた。
「な・・・何を言ってましたか?」
「内緒」
「何か変な事言ったんですね!?何ですか?」
夕鈴は恥ずかしさのあまり、捲し立てるように言う。
フと空気が冷たくなり、夕鈴は無意識に身構える。
「君の我儘を叶えてあげたくなる」
「な・・・にを・・・」
夕鈴がマントをぎゅっと握りしめて後ずさりすると、トンッと背中に壁があたった。
「君はいつも愛らしいな」
視線は夕鈴に注がれたまま、髪を掬い取られて口付けされる。

――― もうダメ・・・

ぺたんと床に崩れ落ち、マントで顔を隠した。
「ゆーりん?」
マントをつんつん引っ張られるが、今自分は陛下に見せられない顔をしていると、ぎゅうっとマントを力いっぱい握る。

――― もうイヤ・・・

じんわり目頭が熱くなる。
いつも自分ばかり陛下に振り回されて嫌になる。
「ゆうりん」
優しい声音とは裏腹に今度は先程より強くマントを引っ張られ、涙で歪んだ陛下の顔が見えた。
「・・・ごめん。やりすぎた」
困惑顔の陛下が夕鈴の目頭をそっと手で拭った。
陛下の顔が近づいてきて、夕鈴はぎゅっと目を閉じる。
「寂しかった」「会いたかった」
耳元で優しくゆっくり言われる言葉は、昨夜自分が夢の中で言った言葉そのままで、夕鈴はまたマントに真っ赤であろう顔を埋めた。

―――私・・・何言ってるの・・・
   そんなの言う資格ないのに・・・

恥ずかしさと戸惑いの中、耳元で陛下の息遣いを、体でうるさく鳴る自分の心臓の音を感じていた。
「・・・・・・僕もだよ」
心からストンと何かが落ちた気がした。
それだけで、その言葉だけで、十分だった。
ぽろぽろと流れてくる涙を抑えきれなくて、声を押し殺して泣いた。
しゃくりあげている夕鈴の背中を陛下はそっと擦る。

――― あったかい

「夕鈴にそのマントあげるね」
陛下はそう言いながらマントを夕鈴の顔から剥がして、おでこに口付ける。
夕鈴は目をぱちくりさせた。
「僕が後宮に来られない時は、そのマントを僕だと思って?寂しがり屋のお嫁さん」
「っ!///いりません!」
マントを陛下に押し付けるも
「えー。もう夕鈴の涙で濡れちゃったし、ねっ?」
しゅんとした小犬に逆らえない夕鈴はしぶしぶ「・・・はい」と頷いた。
その瞬間、マントごとぎゅうっと抱きしめられる。
「今度からそのマントを抱きしめながら寝てね」
「・・・やっぱりこれ要りません」
「そんなあ!」
そんなやり取りの後、顔を見合わせて笑った。


結局、このマントは「夕鈴にあげる!」と陛下が譲らず夕鈴の手元にある。

たまに夕鈴が抱きしめながら眠っていることは夕鈴だけの秘密。
でも、こっそり夕鈴の寝顔を覗きに来ている陛下に知られていることは陛下だけの秘密。


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