風の音

捕獲 2

※ 『この世の春』 の あさ様よりいただきました!
  無断転載禁止です。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

【設定 本誌沿い】
《捕獲 2》


「あー、お妃ちゃん。なんかほら、日持ちのする食いもん作ってよ。」

ため息交じりの浩大の声。
石のように固まったままの夕鈴の背がぴくりと動いた。

「…浩、」
「届けてやるよ、弟くんに。」
「いいの?」
「試験は何日間もあるだろ。家のものだと言って差し入れに行くくらいのこと、誰でもしてる。」
「そ、そうなの?」
「もちろん、不正はだめだけどな。貴族の坊ちゃんなんかがいきなり自炊なんてできるわけないだろ?その程度の融通は利くようになってんの。」

さも当然と言わんばかりの浩大に、夕鈴もようやく愁眉を開く。

「すぐ!すぐ作ってくるわね!浩大の分も作るから楽しみにしててね、ありがとう!」
「おうっ、飛び切り美味いの頼むぜ!」

裾の乱れも気にせずに走り去る妃。
先ほどまでとは打って変わったその様子に、浩大の頬に笑みが浮かんだ。


一方、その頃。
政務室では。

「…妃は?」
「へ、陛下、お妃様は今朝ほどお越しになりましたがすぐに退がられて…。」
「ほう、退がった?なぜだ。」
「そ、それは、」

順調に冷えていく室温に官吏たちが悲鳴を上げていた。

「陛下。お妃様は少々体調がすぐれないのでお部屋で休まれるそうです。」

青ざめ始めた官吏達に助け船を出したのは、李順。

「では見舞わねばなるまい。」
「こちらが終わってからどうぞ。」

どこまでも事務的な口調で、側近は容赦なく書簡を積み上げた。

「……李順、」
「昨日も一昨日も昼過ぎに逃亡なさいましたそのツケが溜まっております。」
「でも、お見舞い――――」
「陛下がサボっております、と、お妃様に申し上げても?」
「う。」

ふぅ、と。
黎翔は諦めたようなため息とともに筆を取り上げる。

――――夕鈴、体調どうかな。

書簡に目を通しながらも不安がよぎる。
本当の夫婦になってからこの方、弱音の一言も吐かず毎日一生懸命で。
日々輝きを増していく、夕鈴。
昨日も一昨日も、そんな彼女を労わるつもりが結局自分の欲を満たすような抱き方をしてしまった。

「…ちょっと無理をさせ過ぎたかな。」

昼下がりの温かな部屋の中、陽の光の下で愛しい人に愛を囁く。
夜とはまた違う趣につい夢中になり過ぎた自分を少しだけ悔いたが、では止められるのかと問われれば頷きかねた。

「可愛いんだよなぁ…。」

深まっていく口づけの甘さ。
吸い付くような肌と立ち昇る香と。
抗いながらも受け入れてくれるナカ。
彼女の乱れ行くさまが情欲を煽りたて、どうにも自制がきかなくなる。

「…陛下。お静かに。」

よし、決めた。

「今晩こそは少しだけで我慢しよう。」
「陛下っ。」

愛しい妃を想い、にっこりと微笑む国王。
額に青筋を立てる側近。

そんな光景を遠巻きに眺めながら、官吏たちは。

「お妃様は偉大だな。」
「ああ…いらっしゃらずとも威力絶大だ。」

後宮の方向に心の中で敬礼をした。


捕獲 3 へ続く・・・

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