風の音

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捕獲 3

※ 『この世の春』 の あさ様よりいただきました!
  無断転載禁止です。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

【設定 本誌沿い】
《捕獲 3》


「お、いい匂い。」

さわりと流れる風が甘くて香ばしい。
それに誘われるように浩大は厨へと急いだ。

「できた?」
「ええ、今焼きあがったところよ。」

出来立ての温かい焼き菓子。
数日は風味が落ちぬうえ腹持ちのするものだ。

「たくさんあるから、浩大も食べてね。」
「ありがと。」
「それから…あの子に、青慎に、ね。」

手早く菓子を包んでいた夕鈴の手が、止まって。
ぽつり、と何かが落ちる。

「そばにいてあげられなくて…大事な時に、いてあげられなくて…」

ぽつり、ぽつり。
増えていく、小さな水たまり。

「ごめんね、青慎…姉さん、母さんと約束したのに…私がちゃんとする、って…」

震える、白い手。
普段は見せることのない夕鈴の涙。
浩大は俯いて、唇を噛んだ。

「なあ、お妃ちゃん。」

家族の温もり。
肉親への愛情。
そんなものは隠密には必要ないし、知らない方がいいものだ。
全てを切り捨てて今を生きていく自分には分かりえない大切なものを、お妃ちゃんは捨てた。
それがどれほどの思いなのか俺は知らない。
でも、これだけは分かる。

「まだ昼前だ。陛下が戻るまでまだ時がある。ここから弟くんのいる場所までは半刻もかからない。」
「こう、だい?」

それは、俺にできるのは何か、ってこと。
この優秀な隠密にかかれば。

「――――連れてってやるよ。誰にも、もちろん陛下にも知られずに。」
「っ!」

狼陛下の唯一の妃を。

「いいの?浩大。」
「ああ。口止め料はこの焼き菓子な?」

ほんの一時だけ。

「ありがとう、浩大!」
「しーっ。声がでかいよ。」

弟思いの姉に戻すことなんか、朝飯前。
…の、はず、だ。

たぶん。


「まずは着替えだな。こっち来て。」
「ええ。」

足音も軽やかに後宮の裏へ消えていく二人。
素早く着替えを終えた夕鈴と浩大が抜け道を通り抜けて後宮から出た、そのほんの少しあと。

「…夕鈴?どこ?」

側近の目を盗んで後宮へやってきた狼は、甘く香ばしい匂いに誘われて厨にたどり着く。
そして。

「――――どこだ、夕鈴。」

優秀な隠密の目論見は。

「どこ、だ?」

早々に瓦解した。


捕獲 4 へ続く・・・

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