風の音

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

捕獲 4

※ 『この世の春』 の あさ様よりいただきました!
  無断転載禁止です。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

【設定 本誌沿い】
《捕獲 4》


「ほれ、鍔。これも持って行っておやり。」
「こんなに食いもんばっかあっても青慎には食いきれねえよばあさん!」
「お前は知らないだろうが、頭を使うときは腹が減るんだよ!つべこべ言わず持っておいき!この章安区から進士様が出るかもしれないんだ!」
「へいへい、持ってけばいいんだろ…ったく。」

いつの間にか荷車がいるほどになってしまった差し入れの山。

「…耄碌して山籠もりと間違えてんじゃねえのか。」
「なんか言ったかい?!」
「いいや、じゃあ行ってくる。」

几商店。
立派な構えの店先で繰り広げられる賑やかなやりとりを微笑ましく眺めながら人々は往来を行く。
汀青慎。
この辺りでは有名な私塾に通う秀才。
早くに母親を亡くしたというのに素直で優しい性格の彼は、今。
章安区の期待を一身に背負っている。

「あんまり期待すると青慎の負担になるってのに…。」

ふぅ、とため息をついて頭をがしがしと掻きながら進む几鍔の前方。
徐々に近づいてくる、試験会場へと続く城門。
彼同様、近親者への届けものに来た人々で混み合うそこをなんとか無事通過して、中へ。
試験会場は曲がりなりにも王宮内にある。
それなりに緊張しつつ青慎のいる建物を目指す彼の隻眼に、ちらりと。

「っ!夕鈴!」
「几鍔?!」

見間違えるはずなどない、あの幼馴染の姿が飛び込んできた。

「…おまっ、お前こんなとこでなに…むぐっ!」
「はいはい、ちょっと黙ってね。」

大声を出しかけた几鍔を浩大が取り押さえる。
済んでのところで大切な包みを取り落としそうになった夕鈴は、まだ温かいそれをそうっと抱え直し。

「―――青慎への、差し入れよね?」

ありがとう。

と、小さく呟き頭を下げた。

「…お前っ、」

息を呑む、几鍔。

「ありがとう、几鍔。あの子のために、ありがとう。」

下町にいた頃よりもずっと上等な衣。
さらりと靡く髪の艶やかさ。
ほんのりと届く上質な香。
そして、何よりも。

「……お前、」

醸し出される満ち足りた艶やかさが彼女は今、幸せなのだと物語る。

「うまくやってるみたいで、安心した。」
「几鍔…。」

ふっと笑った几鍔の手がすっと伸びて。

「連絡くらい寄越せよな!」
「なにすんのよっ。」

乱暴に夕鈴の頭を撫で、始まったのはいつもの口喧嘩。

「お妃ちゃーん、ほら、早くしないと時間が…。」

浩大はひそかに頭を抱えた。



捕獲 5 へ続く・・・


スポンサーサイト

*** COMMENT ***

コメントの投稿

管理人にだけ読んでもらう

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。