風の音

捕獲 5

※ 『この世の春』 の あさ様よりいただきました!
  無断転載禁止です。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

【設定 本誌沿い】
《捕獲 5》



「…おかしいなぁ。」

汀家、門前。
晴れだというのにどんよりとした空気を纏った長身の男が首を捻る。

「夫に愛想をつかしたお嫁さんが行く先は実家だと思ったんだけど…。」

ふぅ、とため息をついて眼鏡を外し天を仰ぐ男。

――――どうして君の事となるとこうもうまくいかない?

白陽国の空を統べる狼陛下が嘆息する。

いつまでも動かぬ男を通行人が訝しみ始めた時。

「へい…じゃない、李翔さま。」
「どうだった。」
「氾家のお嬢さんのとこにもいないみたいです。浩大から連絡はありましたか?」
「ない。」

憮然とした様子の黎翔に首を竦めながら、克右が現れた。

「急にいなくなるなんて、らしくないですね。」
「いなくなったんじゃない。ちょっと出かけているだけだ。」
「…失礼いたしました。」

ずん、とまた一段重くなる空気。
克右はただならぬ気配を振り払うように殊更に明るい声を出した。

「では、きっとすぐにお戻りになりますよ。ちょっとそこまで出かけただけならきっと、」
「帰ってこなかったらどうするんだ。」
「うっ。」
「か、帰ってこなかったら…来なかったら…」

がくり。
自分の台詞に衝撃を受けへたり込んだ黎翔を道行く人々がじろじろと見、足早に去っていく。

「ちょ、李翔さま、何やってんですかしっかりして下さいよ!」
「もう帰ってこなかったら…夕鈴…。」
「なに言ってんですか。あの娘さんが陛下をほったらかして出ていくわけないでしょうが。」

彼女と初めて会った時からずっと。
彼女はずっと陛下の味方だった。
商家の小間使いだろうが唯一の妃だろうがそんな立場とは無関係に、彼女はいつもこの方の味方をし続けて。

「陛下の敵を減らしたい一心で妓館に潜入までしたお妃様ですよ?すぐ戻りますって。」

そんな彼女が何の言伝もなくいきなり姿を消す訳がない。
きっとすぐに戻ってくる。

だから!早く!

「さ、王宮に戻ってお帰りを待」
「待ってるだけなんて嫌だ。探す。」

連絡を寄越せ、浩大!
俺一人じゃこの方の面倒なんて見きれん!

「…はい。かしこまりました。」
「なんだ文句でもあるのか。」
「…いえ。」

ようやく軍部に戻れたと思ったのに!

克右の心の叫びは誰にも届くことなく。
虚しく空に溶けた。


捕獲 6 へ続く・・・


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