風の音

愛おしいものたち ~前編~

2016/01/13 ≪未来≫
※ 前後編になります。
  少し未来のお話になります。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

今日は特別な日。
朝から夕鈴は機嫌が良かった。
ずいぶん前から計画していたことをもう一度、頭の中で整理する。
午前中は蘭瑶様とお妃修行で、午後からは学者の方とお勉強。
そして、夕方からは予定を空けてもらった。
「完璧ね!」
にっこりと満足げに頷く。
蘭瑶様のお妃修行は相変わらず緊張するし、学者の方との勉強も深く細かいところまで触れられるようになり、まだまだ勉強中の身だと夕鈴は思っている。
『もう十分だよ!僕の傍にいてくれるだけでいいから』と言う陛下と、
『大分マシになってきましたかね』と言う李順の言葉を思い出し、ふっと表情が緩まる。
夕方、夕鈴はそっと、とある場所へ入り込み、こっそりと何かをし始めた。
辺りが暗くなり始めた頃、夕鈴はそわそわしながら陛下のお越しを待っていた。
「夕鈴」
「陛下、おかえりなさいませ。今日「ごめん!」」
慌てた様子の陛下に夕鈴はキョトンとする。
夕鈴の肩に手を乗せて、陛下は言葉を続ける。
「どうしても今日中にやらなきゃいけない仕事が入って、今日は帰ってこられそうにない。・・・ごめんね。」
「そ、ですか・・・」
「ごめんね」
何度も謝る陛下に、夕鈴は首を横に振る。
「陛下御自身ではなく、侍女にでも言伝してくださればよかったのに」
走ってきたのだろう陛下は肩で息をしている。
「どうしても、君に直接謝りたくて・・・」
「私は・・・大丈夫です。ほら、早く戻られないと皆さん待っていますよ」
「うん。ごめんね」
走って去っていく陛下の後姿を見つめながら、夕鈴は自身が放った「いってらっしゃいませ」の言葉が陛下に届いたかは分からなかった。
「浩大」
「ほーい」
呼ばれた隠密は、天井裏からひょっこりと顔だけ出す。
「私、ちゃんと笑えてたわよね?」
夕鈴の右手はいってらっしゃいのまま挙げられていて。
震える声でそう問われ
「あー・・・よくできた・・・カナ」
浩大は微妙な顔で答えた。
「浩大、勿体ないからそれ食べて」
そう言いながら部屋を出ていく夕鈴に浩大は「お妃ちゃーん」と声をかけるも返事はなく、パタンと扉が閉まった。
浩大はストンッと天井から下りて卓の上にあるものを見る。
頭をポリポリかきながら、ため息をついた。


夕鈴は寝台へぽすんっと体を投げた。
「・・・分かってる。陛下は忙しいもの・・・」
ぽろぽろと流れてくる涙を拭うこともせず、ただ思いのままに泣く。
いつもなら『少し寂しいな・・・』と思う程度で済んでいたが、今日だけはどうしても一緒に居たかったから。
楽しみにしていた分だけ悲しかった。
数日前、陛下に無理を言ったのは自分だ。
このところ、立て続けに仕事が舞い込んできているのは知っていた。
陛下が優先すべきは、自分ではなくこの国のことだ。
それは、夕鈴自身が望んでいることでもある。
心の整理をしながら涙を流しきってしまえば、次陛下に会う時にはきっと笑顔でいられる。
「今だけ・・・」
そう小さく呟いて、夕鈴は枕をぎゅっと握りしめた。


浩大が政務室へ近づくにつれ、ピリピリとした空気が体中を刺すように伝わってくる。
「おー、おっかねェ・・・」
忙しなく動く人の気配を感じながら、その中に少し自分の気配を混ぜると陛下はすぐに浩大に気付いた。
陛下は李順に目で伝え、それを察知した李順は休憩を告げる。
人がいなくなったと同時に天井裏から声をかける。
「陛下、コレ」
ポーンと陛下へ小さな包みを落とす。
包みを受け取った陛下がその包みを開けると、お饅頭が二つ。
ぱくっと食べて確信する。
夕鈴の手作りのお饅頭。
「これ、どうした?」
ギロリと睨んでくる陛下に、首を竦めながら浩大は言う。
「んー。陛下、今日は何の日デショウ?」
「今日・・・?」
質問が返ってきて少々驚くも思い出せない。

今日は何の日か・・・?

「あー、じゃあ。今日、お妃ちゃんと約束してたよネ?」
「やくそく・・・やくそく・・・約束!」
しまった!という表情になる陛下に、浩大は腕を組みながら、うんうんと頷く。
そう、数日前、夕鈴と約束をしていた。


「あの・・・ですね。この日、夕餉をどうしても一緒にしたくてですね・・・。ダメ、ですか?」
顔を真っ赤にした夕鈴が言いにくそうにモジモジしながら、珍しくお願い事をしてきた。
めったにない事だから嬉しくて、しかも上目遣いで言われたから堪らなく可愛くて「うん、いいよ!」と即答した。
その後、夕鈴がものすごく嬉しそうな顔をしていたのを・・・思い出した。


机に突っ伏した陛下に
「もう休憩終わりますよ!」
容赦ない側近の言葉が降ってきた。


空はまだ暗く、辺りはしんと静まり返っていた。
無理やりもぎ取った小休憩の合間に急いで回廊を渡り、部屋へと入る。
寝台に近づくと、枕を抱いて眠る夕鈴がいた。
寝顔を覗くとうっすらと涙の跡があった。
涙の跡にそっと口付けると、夕鈴は少し身じろぎしたものの起きる気配はない。
ふと視線を上げると、夕鈴の頭の近くにある封筒が目に入った。
どうしようか迷ったが、封筒の宛名が自分だったため、手に取る。
夕鈴を起こすのもはばかられ、そっと寝所を後にする。
いつも食事をする部屋へ入ると、卓の上には空になった皿が置かれていた。
あれから浩大が気を利かせて持ち運べるものだけ政務室に持ってきてくれたので、食べた。
残りは惜しいが、浩大に食べてもらった。
彼女ならきっと「勿体ない!」と言うに決まっているから。
温かい料理を夕鈴と一緒に食べられれば良かったが、それを破ったのは自分だった事を思い出し自嘲する。
燭台に火を灯し長椅子に腰かけて、封筒を開けた。


後編 へ続く・・・


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