風の音

愛おしいものたち ~後編~

2016/01/18 ≪未来≫
※ 少し未来のお話です。
  後編になります。
  前編は こちら になります。

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

翌朝、目が覚めた夕鈴は泣きながらいつの間にか眠ってしまっていた事に気付いた。
隣に陛下の姿はなく、昨晩は戻られなかったんだと分かる。
そして、あることに気付く。
「封筒が、ない・・・!」
どうしよう、と思いながら、枕を上げてみたり、敷物をめくってみたり、寝台の下を探してみたりしたが、どこにも見当たらない。

もし、あれを誰かに見られたら・・・

サーと血の気が引き、ドクドクと心臓が脈打つのを感じる。
「落ち着くのよ」
深呼吸して、目を閉じる。
「とりあえず、身支度をしなくちゃ」
今日も予定は詰まっている。
遅れるわけにはいかない。
侍女たちに「封筒を見つけたら知らせてほしい」と告げ、誰かに見られていないことを祈りつつ、今日の予定をこなすことにした。
しかし、夕鈴の思い空しく、封筒は見つからないまま夕刻となった。
「陛下、おかえりなさいませ」
「ただいま、夕鈴」
今日はいつもより陛下が早く後宮へ来た。
一緒に夕餉を食べて、夕鈴が用意したお茶を飲みながらゆったりとしている時だった。
「夕鈴、これ・・・」
陛下の手には失くしたと思っていた封筒があった。
「どうして・・・?」
驚きで目をまん丸にした夕鈴は、視線を封筒から陛下へ向ける。
「昨晩、夕鈴の枕元にあったのを見つけて。僕宛だったから持っていったんだ」
陛下は少しバツの悪そうな顔をする。
「中、見ましたか?」
「うん」
陛下の返事と共に夕鈴の顔が、ぼんっと赤くなる。
「かっ、返してくださいっ!!」
夕鈴の手が封筒に届く前に陛下がサッと封筒を持っている手を上にあげる。
「嫌だ」
「なっ・・・何でですか!?返してください!」
両手を上にあげ何とか陛下から封筒を取り返そうとするも、届くはずもなく。
「ありがとう。嬉しかった」
ふいに耳元でそう言われ、ドキンと胸が鳴る。
咄嗟に囁かれた右の耳元を隠す。
「昨日は約束を破ってごめん」
耳元を押さえたまま夕鈴はフルフルと頭を左右に振った。
陛下は悪くない。
この国のために一生懸命なことを夕鈴は誰よりも近くで見て知っている。
誰も、悪くないのだ。
陛下に渡すためのものが、きちんと昨日本人の手元にあったなら幸運と言うべきだろう。
「そんなものしか渡せなくて、すみません」
小さな声は少し震えているように聞こえた。
「何物にも代えがたい、すごく素敵なものだったよ」
封筒の中には四種類の栞と一通の手紙が入っていた。
栞は春・夏・秋・冬の四種類あり、それぞれの季節に咲く花が押し花にしてある手作りのものだ。
花は後宮で手入れされているものではなく、どこにでも咲いている花であしらわれていて、夕鈴らしいと陛下は思った。
そして、手紙は感謝の言葉と夕鈴の想いが綴られた恋文だった。
夕鈴が何故一緒に夕餉を食べたいと言ったのか、それを読んで気付いた。
昨日は“本物の夫婦”になって、一年経った記念日だったのだ。
四種類の栞は二人が過ごした季節を表している。
「結婚一年目は紙製品を贈る風習のある国があると聞いて、用意したんです」
夕鈴ははにかんで頬をほんのり染めた。
彼女はどれほど前から準備してくれていたのだろうか、と陛下は昨日のことを悔やむ。
「料理、美味しかったよ」
「召し上がったんですか!?」
一体いつ・・・?と首を傾げる夕鈴に浩大が運んでくれたことを告げる。
「今度は絶対に夕鈴と一緒に、夕鈴の手料理を食べるよ」
ペタンとした幻の小犬の耳がしょんぼりしているように見えて夕鈴は苦笑する。
「また作りますね。今度は温かい料理を食べてください」
「うん!」
しおれていた耳がピンッと立って、パタパタ振られる尻尾が見えるようだった。

後日、夕鈴の手料理を美味しそうに頬張る陛下とそれを嬉しそうに見つめる夕鈴の姿があった。
夕鈴がお礼にと浩大にも料理をお裾分けしていたことを知った時の陛下の様子はまた別のお話。




それから数年後......
「夕鈴いつもありがとう」
初めて迎える記念日に失敗した陛下は、次の年から欠かさずささやかなお祝いをしてくれる。
夕鈴にはそれがすごく嬉しくて、でも少しくすぐったく感じている。
今年は花束の贈り物。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
ふふっと笑う夕鈴の腕には、色とりどりの花が咲く大きな花束と、すやすや眠る小さな赤子。
陛下は優しくぎゅっと全てを抱きしめた。


スポンサーサイト
«日記  | HOME |  日記»

*** COMMENT ***

コメントの投稿

管理人にだけ読んでもらう