風の音

狼の思惑と兎の心

2016/01/25 ≪花嫁≫

※ LaLa3月号(第78話)のネタバレになります。
  LaLa未読の方やコミックス派の方はご注意ください!!

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

陛下、全然目を合わせてくれない・・・。

今日はまた炎波国の朱音姫と交流会を行っている。
陛下と朱音姫の会話は弾んでいるようで、夕鈴の心は痛んだ。
甘い台詞や行動は前回と同じように続けられているが、いつもと違う。

どうして、こうなっちゃったんだろう・・・

確かに『浮気対策会議』なるものは開かれていたし、いろいろな助言はあった。
私のとっていた行動は『陛下の浮気を心配して』というよりも、『もっと自分から陛下に近づこう』というものだったはず。
私がどんなに変な行動をとっても、嬉しそうだった陛下の顔が浮かぶ。
じんわり浮かんできた涙を堪えようと、ぎゅっと唇を噛み締めた。

「私、また庭園を散策したいですわ」
と朱音姫がニッコリとそう言ったので、庭園へ移動することになった。
陛下と夕鈴、朱音姫はほぼ横並びのような格好で庭園内を歩く。
夕鈴は何だか自分が場違いのような気がして、一歩後ろへ下がる。
ふ、と周りにいる人たちが何か言っているのが聞こえる。
内容ははっきりと聞こえないけれど、話の内容は予想できる。
並んで歩く二人の後ろ姿を見ると、夕鈴の気分はさらに落ち込んだ。

―― お妃様。いついかなる状況においても、堂々となさいませ。
   少しの躊躇いも命取りになりますわよ

蘭瑶様の言葉が蘇る。

そうだ。私が狼陛下の唯一の妃、なのだから――・・・。
背筋を伸ばし前を向き、常に笑顔は忘れずに・・・。

夕鈴はタタッと少し駆け寄って、陛下の隣に立って歩いた。

  * *

そよそよ揺れる風が、濃い緑の葉をつけた木々を揺らしている。
少し暑くなってきたけれど、後宮を一人散歩するのは気持ちがいい。
先ほど見た光景が頭を過ぎる。
年頃のお姫様。

お似合い・・・よね。

陛下が朱音姫と結婚することになれば、きっと私は用無しだ。
「他の人が言っていたみたいに、陛下は朱音姫と結婚した方がいいのよ。こんな得体の知れない私なんかより、きっと幸せになれるわ。お互いの国にもいい事だしっ!」
自棄になっている自覚はあるけれど、口は止まらなかった。
声が震えて鼻の奥がツンとする。
ガサッと音がした方を見ると、木に逆さまにぶら下がった浩大がいた。
「ソレ、本気で言ってんの?」
「・・・・・・」
「ねえ、お妃ちゃんはそれでいーワケ?」
浩大が頭の後ろで腕を組みながら聞いてきた。
握りしめていた拳が震える。

いいわけ、ないじゃない・・・。

「へーか、に・・・嫌わ、れ・・・っ・・・ちゃっ・・・た、かなぁ・・・」
泣きながら、エヘヘと力なく笑う。
俯き、声を押し殺して泣いた。
少しして、ひっくひっくとしゃくりあげ始めた。
でも、涙を止める術はなく、思いっきり泣き続ける。

信じていない訳じゃない。
ただ、怖かったの。
いつか、何も持っていない私が捨てられてしまうんじゃないかって。
今の幸せがいつか壊れてなくなったら・・・。
大好きなのに。
いつも陛下の隣にいるのは私でありたい。
私だけを見つめていてほしい。
幸せなのに、『もっと』と思ってしまう自分の心が、とても醜い感情のようで・・・。
これ以上を願ってしまうことに、躊躇ってしまう。

「それが君の本心?」
顔を上げると先ほどまで浩大がいた木の下に陛下が立っていた。
ぼたぼたと涙が頬を伝い落ちる。
浩大を探すと陛下の遠く後ろで、両手を合わせて『ごめん』の格好をして、その後木の上にひょいっと上がって見えなくなった。
「見ないでっ・・・!!」
酷い顔を見られたくなくて、顔を隠す。
「夕鈴・・・」
優しい声で呼ばれ、ビクッとする。
ゆっくりと近づいてくる足音。
逃げたいのに、足が震えて動けない。
「顔、上げて?」
お願いのように言うけれど、逆らえない言葉に夕鈴はゆっくり顔を上げた。
陛下が涙で揺れて見える。
「へーか、ごめんなさい・・・。嫌いに、ならないで・・・」
最後の方は声が震えていて陛下に届いたのか、夕鈴には分からなかった。
陛下は何も言わずにそっと夕鈴の涙を拭う。
「夕鈴が不安なように、僕も不安な時があるよ」
「?」
陛下がフッと笑う。
「可愛い夕鈴が他の誰かの目に留まってしまったら・・・。夕鈴の心が僕から離れてしまったら・・・いつか下町に帰りたいって思ったら・・・」
夕鈴は頭をフルフル振る。
「私には陛下だけですっ!」
「・・・うん。同じように私にも君だけだ」
前見たお腹を空かせたような狼の瞳に捕らわれて、ゾクッとする。

どうしてそんな顔をするのだろう?

陛下を遠くに感じて、夕鈴は不安に襲われる。
怖くなって陛下の袖口をぎゅうっと握った。

しっかりと目を背けず言葉にすれば、私の本心は伝わるだろうか?

恥ずかしがっていては駄目だ。

ちゃんと自分の言葉で伝えなくては。

『絶対に負けません』って言った私は一体どこへいったの?

「わ・・・私だけに優しくしてください!他の女性(ひと)が陛下の隣にいるのは、嫌なんです」
陛下の瞳を見つめて、勇気を出して言葉にする。
臨時花嫁の時には言えなかった、大切な気持ち。
私の思いを知って陛下に引かれたらどうしよう、という気持ちもあるけれど、自分の本心を知っていてもらいたい気持ちの方が大きい。
「ごめんね。君を泣かせたかった訳じゃない。優しくしたかったのに・・・」
陛下の温もりが触れて、夕鈴はほっとする。
「陛下は私にたくさんのものをくださるけれど、私が陛下にあげられるものは、すごく少ないです・・・」

いつももらってばかり。

「君が思っている以上に、君は僕にいろんなものをくれているよ。君にしか、出来ないことだよ」
夕鈴を抱きしめる陛下の腕に力がこもる。
夕鈴は陛下の腕の中で目を閉じる。

私にしかできないことがあるという、陛下の言葉を信じよう。

「仲直りしたし、今日はいっぱい愛し合おう」
ひょいっと抱き上げられた夕鈴は、ぼふんっと顔を赤くする。
風がサァーと吹いて、どこかから花の香りを連れてくる。
「・・・優しくしてくださいね」
夕鈴は、陛下の首にぎゅっと抱きついた。



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