風の音

振り回される幸せ

2016/08/22 ≪花嫁≫

お題サイト → Kiss To Cry 様

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

『振り回される幸せ』

久々に来た下町。
少し来ていなかっただけで、疎外感を感じる。
それは本当に些細なことで。
「あ、あそこ新しいお店ができてる」「あら?あそこの人は結婚されたのね!」とか。
そんなこと。
私がここを離れるなんて思ってもいなかった。
ずっと、死ぬまでここで誰かと暮らしていくんだと思っていた。
そもそも、それ以外の選択肢なんて考えたこともない。

「ねぇ、夕鈴。あそこのお団子美味しそうだよ!」
繋いでいる手を引っ張られて、お店に連れていかれる。
斜め後ろから見えるウキウキとした表情に、自分の顔がほころぶ。

まだ信じられない時がある。
この人が自分の隣にいて笑ってくれていることに。

片思いのまま終わると思っていたこの恋に・・・未来があったなんて。

結婚してからは、本格的なお妃修業でなかなか下町には来られなかった。
ある夜、陛下に少しだけ不安を打ち明けたら、その次の日に
「今度、1日だけ休みがとれたから、久々にデートしよう」
と、言われた。
何気ない優しさに心が震えた。

「んーと。次はあっち!」
次から次へと、それこそ全部のお店を回るのか・・・?というほどの勢いで連れていかれる。
先ほどは、髪飾りのお店に入ってあれこれ買おうとしていたかと思えば、次はおたまを買おうと言い出し(丁重にお断りした)、今はお饅頭を食べている。
少し呆れながらも、連れ出してくれたことに嬉しさが込み上げる。

「お腹空いたね」
「・・・」

さっきまであれだけ食べていたのに、まだ空いているのか・・・

この人のお腹は一体どうなっているのか、と思う。
陛下の買ったものを少しずつもらっていた私もお腹が空いていたので、近くの飯店に入ることにした。
「いらっしゃい!」
元気よく声を掛けられて、勧められた席に座る。
周りを見渡すと、繁盛しているようで、席はほぼ埋まっていた。
ワイワイガヤガヤと騒がしい人の声に、カチャカチャと片付けられる食器同士が重なる音が聞こえる。
そこに飛び込んできた声。
「そう言えば、狼陛下の唯一は妖怪って噂が・・・」
ガタッと音をたて席を立とうとした私の腕を陛下が掴み、軽く首を左右に振った。
しぶしぶ席に座り直す。
「夕鈴ってば、ああいうのに突っかかっちゃ駄目だよ」
声を落として、陛下に言われる。
「だって・・・!本当は違うもの」
悔しがる私に陛下が小さく息を吐く。
「ここの人たちにしたら、あそこにいる人間なんて本当にいるか分からないほど遠い存在で、きっと、いい話の種なんだよ」
それを聞いても納得がいかず、ぷく~と頬を膨らませたら、陛下が口を押さえて笑いを堪え始めた。
「なんで笑うんですか!」
「や、だって・・・ゆーりんの顔、面白・・・」
お腹を抱えて笑いだした陛下に、毒気が抜かれてしまった。
「もうっ!」
そんな話をしていたら、料理が運ばれて来た。
久々に食べる温かい料理に、心を弾ませながら美味しく食べた。


今までは下町にいることが日常で、今は後宮にいることが日常で。
あべこべな生活に時には疲れてしまうこともあるけれど、逃げ出したいと思ったことは一度たりともない。

それはきっと・・・

貴方がいるからなんだろう。

空が綺麗な橙色に染まり始め、月が輝き始める。
「李翔さん!もうそろそろ帰りますよ」
「えぇっ!?」
まだまだ見足りない!という顔をしている夫に苦笑する。


手を繋いで帰る先は、幸せな日常。


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*** COMMENT ***

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もも様

こんにちは(*^▽^*)
幸せなことばかりではないだろう場所で生きているからこそ、
日常のほんの一部分を切り取って、
ご夫婦が幸せを感じて暮らしていたらいいな・・・
というのが、私なりのほのぼのです(*´v`*)
ほんの一時でも、多くの幸せがあったならいいですよね。
そんなほのぼのを好きといっていただけてすごく嬉しいです。
また遊びに来てください~ヽ(≧▽≦)ノ

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