風の音

手を繋いで帰る場所

2016/11/12 ≪花嫁≫

****** ▼ 追記記事 ▼ ******

来てしまった・・・

自分の気持ちとは裏腹な青い空。
大きく息を吸うと、懐かしい空気が胸いっぱいに入ってくる。
目の前には露店が並んでいて、人々は忙しそうに動いている。

そう、私は今、下町にいた。

近くの露店を覗くと、以前に来た時とは売っている商品が入れ替わっていた。
新しい露店も増えていて、歩いているだけでも気が紛れる。

あ!あれ、美味しそう。

ほかほかの肉饅頭を一つ買う。
パクリと頬張ると、ジュワッと肉汁が溢れてくる。

美味しい・・・!

けど、物足りないのは何故かしら・・・?

首を傾げて考えてみるが、答えは分からず、歩を進める。
見ているだけでも楽しい下町の雰囲気。
いろいろな店を回りながらも、買うものはほんの少し。
要るものだけ。
その感覚は鈍っていないようで、元気よく露天商と値切りの交渉をする。
「・・・」

楽しいけれど、やっぱり物足りない。


「夕鈴じゃねーか」
その声の主へ顔を向ける。
「げっ!」
「思いっきり嫌そーな顔すんじゃねーよ。ブス」
「嫌そうな顔はそっちでしょっ!!」
ガシガシと頭を掻きながら、ため息をつくあたり、嫌な奴だ。
知っている人に会わないようにとわざわざ自分が住んでいた乾隴と離れた所へ来たのに何故ここにいるのか。
ムスッとすると、
「仕事で用事があってな」
答えが返ってきた。
私の周りをチラリと見て几鍔が口を開く。
「今日はアイツと一緒じゃねーのか?」
「っ!!」
ぷくっっと頬を膨らませて
「どーでもいいでしょっ!」
プイっと横を向く。
「はぁ~・・・。また遊ばれて捨てられたんだな」
「なんでそうなるのよ!!」

私は遊ばれてなんてない!

「まあ、いいや。ちょっと付き合え」
グイッと腕を掴まれて、近くの茶屋に連れていかれた。
「いらっしゃい!」
にこやかな店員に席を勧められる。
仕方なく向かい合わせに座り、几鍔は飲み物を私は仙草凍を頼んだ。
ドンッと豪快に卓の上に置かれたどんぶりの中に入っている仙草凍を見つめる。
決して「おごってやる」という言葉に釣られたわけではなく、懐かしい名前に惹かれて注文した。

安いのにたくさん入っているそのお得感から、よく明玉と食べたっけ・・・

どんぶりの中には真っ黒でプルンとした小さな塊がいくつも入っていて、上から蜜がかかっている。
漢方のような独特の強い香りがする。
「いつでも戻ってきていいんだぞ」
突然言われたその台詞の意味がよく分からなかった。
頬杖をついた几鍔が私の頭を乱暴に撫でる。
「青慎だって、下町の奴らだって、いつだってお前が帰ってくるのを待ってるぞ」
持っていた匙子をギュッと握りしめる。
「・・・」

違う・・・

私は、家族にも二度と会えないと覚悟して・・・

ポロリと涙が落ちた。
「おっおいっ!?大丈夫か?」
「うるさい!!」
徐に仙草凍をパクパクと食べ始めた。
ツルンとした喉越し。
少し苦い味がする。
後からほんのり甘い蜜の味。
その中にポロポロと流れる涙のしょっぱい味が混ざる。

私は・・・私は・・・


数日前のことを思い出す。
『陛下へきた縁談話』
相手は近隣の王女様。
王宮の皆が何て言っているか知っている。
『申し分のない相手』
陛下から直接その事を聞きたかったけど、生憎仕事が立て込んでいて会えなかった。
それが数日続いて・・・
陛下の言葉を信じていない訳じゃないけれど、やっぱり不安は消せなくて、逃げ出した。

“逃げる”なんて出来ないことは分かっていたのに・・・

自分が陛下の側にいることを決めたのに、なんて馬鹿なことをしているのだろうかと自分で自分が嫌になる。

卓の上に置いてある袋が目の端に映る。
紙袋の中には、あの人が好きそうなものばかり。
一緒にいなくても、一緒にいないからこそ、ずっとあの人のことを考えて、無意識に買ってしまったモノたち。

知ってしまった。

一人で下町に来たって面白くないし、美味しそうな食べ物を食べてもなんだか味気ないし・・・

それは、あの人がいないから。

たったそれだけ。

でも、それだけがどんなに大切なものか、私は知っている。

「おかわり!」
どんぶりをドンッと卓の上に置く。
口いっぱいに広がるほんのりとした苦みはまるで自分に与えている罰のようで・・・。
「お腹、壊すよ?」
ふと後ろから聞こえたその声に驚く。
「な・・・んで・・・?」
そこには、頭からすっぽりと布をかぶって伊達眼鏡を掛けて変装している愛しい人。
「夕鈴が急にいなくなったって聞いたから、急いで来たんだよ」
優しい口調の中に混ざるほんの少しの怒気。
「・・・すみません・・・」
「どうして泣いてた?」
スッと目を細めた陛下の周りの空気が冷える。
「あ・・・苦くて・・・」
ゴシゴシと乱暴に裾で涙を拭う。
「お前のせいじゃねぇの?」
几鍔の言葉にギョッとした。
陛下は几鍔の方へ向き、笑顔を浮かべた。
「幼なじみ君、夕鈴のことありがとう。連れて帰るから。さ、夕鈴、帰ろ」
腕を引っ張られるままに席を立つ。
「夕鈴、いつでも帰って来いよ」
頬杖をついたまま、ムスッとした顔の几鍔が目だけをこちらに向けて言った。
私は笑って手を振る。
きっと情けない顔をしているのだろう。
几鍔が『仕方ないな』という表情をして、素っ気なく手を振り返してくれた。


外を歩き始めると、少し開いた二人の距離。
斜め前をいく陛下を見るが、表情は分からない。
「迎えに来てくださってありがとうございます」
そう言うけど、返事は返ってこず・・・。
「あのっ・・・下町に来たけど、李翔さんと一緒じゃないと楽しくなくて・・・」
「・・・」
「~~~っ!コレ、李翔さんと一緒に食べた、くて・・・」
だんだんと小さく震える声。
陛下が被っている布の端をぎゅうっと握る自分の手が白く震えている。

振り向いてもらえないのが、

悲しくて

苦しくて

「夕鈴、ごめん。泣かせるつもりはなかったのに・・・」
振り返って、そっと私の涙を拭ってくれる陛下の手が温かくてホッとする。
「ここで食べようか」
小高い丘。
地面に座って紙袋からお饅頭を取り出す。
「はい。半分こ」
陛下がお饅頭を割って、半分くれた。
「ありがとうございます」
パクリと口を付ける。
冷めているけど
「・・・李翔さんと一緒だと美味しいです」
「うん。今度、温かいの食べようね」

やっぱり、この人じゃないと駄目なんだ・・・

「夕鈴、縁談は断ったから」
「えっ!?」
何でもお見通しな陛下に驚く。
「何度も言ってるけど『私の花嫁は君だけだ』」
「っ!///でも・・・」
「夕鈴しかいらない。夕鈴は?」
「私は・・・」

ぜんぶ、置いてきた。
この身にひとつだけ・・・“陛下が好き”その思いだけをまとって飛び込んだ。

「私も陛下だけです」
紅い瞳を見つめると、その顔に優しい微笑みが浮かんだ。


「李翔さん、どうしたんですか?」
ペロリとお饅頭を食べ終えた陛下が、なにやら複雑そうな顔をしている。
「やっぱり、夕鈴と幼なじみ君は仲良しだよねぇ・・・」
「ほわっ!?」
「妬けるな」
「っ!///」
顎をクイッと上げられて、陛下の顔が近づいてくる。

なんで急に狼になるのよっ!

思わず目を瞑ると、唇に一瞬伝わる温かさ。
真っ赤な顔をさせていると、陛下がフッと笑った。
「さて。お嫁さんは僕と一緒に帰ってくれる?」
揺れる陛下の瞳に不安が過った気がして、差し出された手をぎゅっと握る。
「もちろんです!」

繋いだ手を前後に揺らす。
昔、青慎と家に帰る時にしていたみたいに。

でも、今繋いでいる手は大きくてごつごつとしている大人の男の人の手。
とても安心するのは、陛下だから。


繋いだ手から互いの熱と想いが伝わってくる。

橙色の大きな夕日が揺れる空。

包み込まれるような幸せに、浸る。






※ 『仙草凍』とは『仙草ゼリー』のことです


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*** COMMENT ***

NO TITLE

素敵素敵!情景が目に浮かぶようです。
ヤケ食い?する夕鈴や、陛下の好きなものばっかり買う夕鈴が乙女で…っ!
陛下がちゃんと追いかけてくれてよかった。
かざねさんのほのぼのラブストーリー、癒されます。大好きです(o^^o)

さり奈様

コメントありがとうございます!
そう言っていただけて、嬉しいです(〃´∪`〃);
夕鈴、ヤケ食いです(笑)
露店巡りしながら(あ!あれ、陛下が好きそう!)とついつい手が出てしまう夕鈴なのでした。
また遊びに来てください~(*^▽^*)ノシ

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